なんとも柔らかな笑顔です。いっさい迷いのない手さばき。軽やかな身のこなし。お客さんとのやり取り。身体全体でわずかにリズムを刻んで踊っているように見える。金沢のお寿司の名店、小松弥助のおやじさんです。予約を取るのはとても難しいお店だそうですが、友人のつてで運良く予約を取っていただき、行ってきました。
年齢を聞いて本当に驚きました。満席のお客さんの全てのお寿司を、弾むように楽しそうに握っているその方が88歳とは!
そばには彼を支える3人のお弟子さん達がいて、実に活き活きと見事な連携で彼を支えています。
師弟の関係はいろんな形があるのでしょう、今まで行ったお店の中には、カウンターを挟んで、客であるこちらまでが緊張してしまうようなところもありました。でもここはカウンターの中も、カウンターの外でお客さんの間を飛び回っている女将さんも含めて、実に楽しそうです。だからお客さんたちも次のお寿司を想像してワクワクしながら笑顔で待っています。
おやじさんも、きびきび動くお弟子さんたちと一緒なのがとても嬉しそうに感じられました。そして、それがおやじさんのエネルギーの源になっているように思えました。
カウンターのお客さんの中に、2人連れの若い男性がいました。東京のお寿司屋さんで働いているそうです。お休み使って、名高い弥助さんのお寿司を勉強に来たのでしょうか、おやじさんの一挙手一投足を、眼をキラキラさせて見入っています。
喜んでお寿司を握る…それはもちろんお寿司の味となってこちらに伝わってきます。誰にも同じように、1つひとつ手渡しされるお寿司は、限りなくあたたかく、あまみがあり、口のか中で優しくほどけていきます。
美味しくて有名でありながら、決して順調な時ばかりではなかったとか。でも続けてこられたからこその今の突き抜けた笑顔なのでしょうか。お寿司を手に乗せてくださるその瞬間、いたずらっ子のような愛らしい表情を見せてくれます。
"美味しいお寿司を食べられる"それだけの期待で行ったのですが、1つひとつのお寿司だけでなく、弥助さん全体の空気にとてもとても満足して帰りました。
88歳、お店のシンボルのように顔を見せるだけの存在ではなく、今なおバリバリの現役で、こんなにみんなを喜ばせるお仕事ができるって、なんて素晴らしいことでしょう!おやじさん、その笑顔に出会えたことを忘れません。本当にご馳走様でした。